会社を経営していて、ちょっと利益が出ると、途端に「節税」と言い出す経営者がいます。
たくさんの企業を見てきた私からしますと、本当に意味を分からずに節税をしようとする経営者が多いこと多いこと。
今回は、多くの経営者がはまる節税の罠について解説します。
保険は節税?
節税というと真っ先に思い浮かぶのが保険。これは節税になるでしょうか?
節税になるかどうかを調べたければ、保険会社の決算を見ることをお勧めします。
例えば最大手の日本生命であれば、こちらから見ることができますね。
ここで大きな前提を。世の中の大きなお金の流れは二つです。
(1)お金を貸す、借りる の関係
(2)収入、経費の関係
基本的にはこの二つが全てで、政府系や寄付などの一部の例外以外はこれで説明可能です。
さて、保険を払うという行為はこのどちらでしょうか?
積み立て部分に関しては(1)、掛け捨て部分は(2)です。積み立て部分は、積み立てた額がそのまま戻ってきます。それは決算書では「保険積立金」という資産になっているはずです。これは損得なしですね。
掛け捨て部分は(2)です。これは損得があります。払ったときは経費、戻ってきたら収入です。
あれ?収入?そうです。収入です。だから解約返戻金が戻ってきたら税金がかかります。
しかも解約返戻金は一気に大きな額で戻ってきますから注意が必要です。中小企業は800万円までの利益と、それ以降の利益で税率が異なります。一気に返戻金がある場合は、800万を超える部分になる可能性が高く、税率が高くなるのです。
返戻率は税効果を加味すると100%を超える商品があります。保険会社のセールスマンにそんな表を見せられた人は多いでしょう。しかしよく見てみてください。保険金を払うときには法人税率33%(これは上場企業基準の計算で、中小企業の実務的には20%程度です)が節税効果とうたわれていますが、戻ってくるときの課税に関しては考慮されていません。ほとんど詐欺のような資料です。
つまり全く節税にならないどころか、逆に存する可能性もあるのです。もちろん保険として本質的に必要であればよいでしょう。保証がよい保険に入って、節税は二の次でよいと思います。
倒産防止共済は節税になるか?
中小企業に特別に用意された国の保険があります。倒産防止共済、りゃくして「とうさんぼう」と呼ばれています。
これは取引先の倒産に対する保険ですね。この目的ではいいのですが、節税目的でこの保険を考える経営者がいます。ただ断言できるのは、これは節税効果ゼロです。
なぜかを考えます。支払った時は全額損金、戻ってきたときは全額収入です。だから当たり前ですが、節税になりませんね。
節税になる場合は次のうちのどれかです。
1、戻ってきたときの税率が、払った時の税率よりも低くなった
2、戻ってきたときに税務上の欠損金を持っていたため、収入が欠損と相殺される
まず1ですが、これは法人税率です。毎年の税制改正によって変わっていますが、今の時点で将来どうなるかはわかりませんね。
2の方は、欠損金という、過去の赤字がある場合に、黒字が出たときに過去の赤字額と相殺して、赤字を上回った部分の税金を払えばよいという制度を利用したものです。しかし都合よく赤字とは限りませんし、保険返戻に備えて赤字にするというのは本末転倒です。
役員の退職金(損金)と絡めて保険の解約をするというのが妥当ですが、それでも倒産防止共済の場合は一定の条件を満たさないと100%戻ってくるとは限らないので注意が必要なんです。
そして退職金を絡めようがどうだろうが、払った額がそのまま返ってくるだけで、利息も付かないのです。しかも簿外の資産ですから、預金額が減ってしまい、流動比率などの財務評価が下がります。
こんなことをしていては本末転倒です。
何のための会社か?
そもそも節税なていうのは、中小企業が考えるものではありません。中小企業はしっかりと利益を出して、納税して、企業価値を高めるべきです。しっかりと企業価値を高めておけば、例えば取引先の倒産などの事態に遭遇して、銀行から普通に融資を受けることができます。倒産防掛け金などの資金流出がなければ、流動比率もいい数値が出ますから、会社の評価も高いのです。もちろん純資産も無駄遣いをしていない分高いですね。
こうした企業の財務状況が重要なのです。節税はキャッシュアウトを伴うものばかり。保険もそうです。キャッシュアウトを伴っていては、投資チャンスを逃す可能性もあります。保険には、貸付が可能な商品もあります。しかしそれはグレーゾーンギリギリの水準での金利が付きます。
保険を払わずに企業価値を高めておけば、銀行からの資金調達に困ることはありません。
いったい何のための会社なのか。経営者はそれを理解しなければならず、税理士に勧められるがままの安易な節税は会社を滅ぼすだけであるということを肝に銘じなければなりません。
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